高額な一人ツアー
休憩が終ると、またロバに跨ってポコポコ旅を再開。ほぼ飲まれてしまったペットボトルの水は、自分で飲み、ついに尽きた。
水もないのに太陽に照らされ、乾燥度高いのに、どこぞに行ってそこからそこを見ながら降りていくと言われた。時刻は既に午後1時過ぎ。もちろん昼食もまだだった。
ポコポコ進んでいると、自分も疲れてしまったのか、このガイド君、何と私の後ろに跨って乗ってきた。気温は40度近く、乾燥しているし、すごい日差し。疲れるのは分かるけど、客のロバに乗ってどうする。
私は大きなカメラバッグを背中にしょっているので、くっつかれているわけでもないし、我慢することにした。
2人も乗せた可哀想なロバが歩く中、ガイド君、後ろでブツブツと日本人の元彼女のことをしゃべっていた。
その後、何故そんな話になったのか、何故ロバから降りたのか全然覚えていないけど、ロバを降りて値段交渉の話になった。
最初に決めた値段でいいんだよねと聞いたら、こんなにたくさん歩いたし、君の手を引いて助けてあげたんだし、もっと多くくれてもいいんじゃないかと言われた。「やっぱりな」と思った。
普通、性別を問わず年齢を問わず、誰かと知り合いになりたいと思う人は、電話番号を聞くなりメールアドレスを交換するなり、今だったらSNSのアカウントを聞いたりして、「将来又会えるであろう手段の確保」をする。ただただ褒めちぎったりうまいことだけ言うような相手は、目的が違う。
まず私に男性がいるかどうか聞いていないことを確認して、日本人と付き合っていたことがあると言って親近感を誘い、触れば距離が縮まると誤解して同じロバに乗ったりして、行動がおかしかった。
彼はお金のために働いているのであって、そこまで悪い子ではないのは分かったけど、女子一人又は女子だけ旅では要注意ね。
連れて行かれたのは崖の上で、誰もいなかった。何をされてもおかしくなかったことは事実。平気で女性に暴力をふるうような人間は、もう目つきや挙動からしておかしいので、そこまでのレベルなら自然と分かることが多いはず。このガイド君は、そこまでの異常なオーラはなかったので、その点は安心していた。
でも、異常オーラ手前の、お金が欲しいだけの人を見分けるのはちょっと難しいと思う。お金を得られないことで逆上する可能性があるけど、それは、お金の話にならないと見えないので。
彼は逆上型ではなかったため、とりあえずここは、あそこまで歩くことは私は知らなかったが自分は分かっていたわけで、だから最初に決めた料金はそれを考慮した額だったんだから、歩いてあげたからもっとくれと言うのはおかしいでしょと淡々と説明し、いくら欲しいと言っているのか分からないので、「それでいくら欲しいの?」とも聞いてみた。
でも、何度聞いても、君が決めた値段でいいとしか言わなかった。もしもゼロならゼロでいいと。つまり、「チップ」の発想な感じだった。前の人はいくらくれたとかそんなことを言っており、ツアー代とは別にチップで高額を頂戴と言っていることは分かった。
おそらく、金銭感覚が海外旅行でずれてしまった日本人が、失礼にも、発展途上国の人間に恵んでやるぞとばかりに高額なチップをあげたことがあったのだと思う。それで彼が学習してしまったため、日本人を見るとお金を出してくれると思ってしまうという、発展途上国で良くあるケースだ。日本人の迷惑行為の代償を取らされる感じのやつ。自分の行いが日本国民全体のステレオタイプになってしまうと分からない人たちの是正担当係。
けど、時間もないし、もうこの子と一緒にいるのも嫌だったので、お金を払って縁を切るほうがいいため、幾らにしたか忘れたけど、面倒なので払うことにした。全部で1万円は超えていないと思う。もう日本の元彼女の話などされても困るため、妥協の産物。
私は、金額の多寡ではなく、ぼったくられるのが嫌なのだ。騙そうというその心が。最初から、「相場いくらだけど、一人だから値上げさせて」とか、完全ビジネス的にこられるのは全然いい。相場を隠してふっかけるのが気に入らない。でも、何かしてあげたんだからお礼にお金をくれというのよりはまし。そういう、善意という綺麗なものすら汚す貪欲さは、人を一気に不愉快にする。この辺、ヨルダンで怒ることはなかったけれど、エジプトではブチ切れて3日ほどでエジプトから出ており、旅行記でも相当に批判している。
現地で日本円に換算して大した金額じゃないと思う人がいるけれど、違う国に行ったら、その国の価値観で計算しなければいけない。高い時も同じ。日本円で換算して高いか安いか判断するのは、旅行の費用の計算のためだけ。現地で正しく扱われているかどうかは、現地の価値でしか測れない。
一応、同意した料金以上の額を請求するのは契約違反であってと、契約について1分ほど機関銃のようにしゃべりながら渡したけれど、分かるわけもなし、アホらしいのでやめた。チップなら契約違反ではない。だけど、チップの支払いを強要するのならまた別の話。
旅行は、「選択の積み重ねと記憶の連鎖」だ。人生と同じ。こういう経験が記憶になるとその旅行自体のレベルが下がるため、ペトラはこの時点でいいものにはなっていなかった。
耳がおかしくなる
またロバに跨り出動した。もちろん、彼も後ろに乗っていた。ところが、「そこから降りよう」と彼が言っていた、何とか何とかという場所に行く途中、私の耳に異変が起きた。
エレベーターに乗ると耳がブツッとするでしょ。あれのすごいのがやってきて、ガイド君と話していてもろくに聞こえなくなってしまった。
エルハズネを上から見たのだからそれなりに高地にはいたけど、気圧変化を起こすほど高くはなかった。私の体は敏感な上、当時はまだ絶不調時期から抜け出せていなかったこともあり、太陽に360度照らされて干からびたまま歩かされた上に食べておらず、脱水に暑熱に長い小走りで内耳の血流が乱れたのかもしれない。
本当にほぼ聞こえず、このまま聞こえなくなったら困ると思い、それで効果があるかどうか分からないけど、何か飲まなければいけないと思った。
私 「もう(何とか何とか)とかどうでもいいから、下に降りるから降りられるところまですぐ行って」
そう頼んで、何とか何とかを諦めた。今でも何とか何とかが何だか分からないけど、自分の耳のほうが大事なため、とってもどうでもいい。
ところが、崖の上まで上がってきているし、どこからでも降りられるわけではなかった。今すぐにでも一人で降りたかったけど、降り口まで連れて行ってくれないと、どこがどこだか分からない。
彼が何を言っていたか良く聞こえなかったけど、彼には私の言ったことが聞こえていたため、降り口まで進んでくれた。そして、数分後、無事に降り口に到着。
「じゃあね」と言って、すぐに一人で降りて行った。
解放感
到着した降り口には、整備された階段があった。途中にいくつか露店が出ていたので、正規ルートというか、地図に載っていた道だと思う。
多分、ペトラの上には、わざわざロバで岩山を登らなくても階段で行けたのだと思う。無駄に辛い思いをして登ってしまっただけな気がした。
すごい勢いで階段を下りていく途中、右側の露店でふと目が留まった。日本人みたいな男の子がいた。一緒にいたのは女性で、店員さんだったのではないかと思う。
とにもかくにも下へ降りて何か飲まなきゃいけないので、そのまま急いで階段を降りた。
「もしも降りても何もなければ、チケット売り場のあたりまで戻らなければ飲み物を買えないってことになるのか」と不安だったけど、下に降りてからすぐ、ジュースも売っていた休憩所を見つけた。ありがたいことに、屋根もあって椅子もあった。
そこでジュースを購入。ファンタだったと思うけど、水だったかも。二つとも買ったというのが一番可能性が高いけど。
座って休みながら落ち着いて飲み物を飲んでいたら、耳はあっさりと治った。
良かった♡
命拾いならぬ耳拾いを心から喜んでいると、さっきの男の子が下りてきた。日本人かと英語で尋ねたら、親は日本人だけど日本語は話せないと英語で返された。
彼は、ドイツで日本の両親から生まれ、第一言語はドイツ語で第二言語は英語という、国際色豊かな人だった。休憩しながら少し雑談をして、FBでリクエスト送るねという話になって、FB友達になった。
そして、彼もエル・ハズネの方へ行くというので、一緒に行った。
先ほどは崖の上を通ってしまったので歩けなかったシークをやっと歩けた。
こっちの方が楽しかったけれど、何故かシークの記憶がない。
でも、エル・ハズネは覚えている。
座り込んで眺めた。彼も座り込んで眺めていた。彼も写真が好きらしく、もうお互いに放ったらかし。一人旅者は、基本的に干渉しない。
さっき上から見たエルハズネ、やはり下からのほうがいい。
でももうこれでいいか。
ぼったくり的一人ツアーから解放されたばかりだったし、午後3時も過ぎており、ご飯も食べていないし、ペトラからは出ようと思った。死海へ急がないと、死海からの夕陽を逃してしまうので。
ペトラの記憶をいい思い出に
写真を撮っていたら、馬車の運転手が何度も話しかけてきた。チケット売り場(出入口)までは結構距離があるので、ここから馬車に乗って行く人が多く(逆もまたしかり)、馬車が観光名物になっていた。
幾らでどうだとか言ってきたけど、先ほど現金をたくさん出したので、現金はそれほどなかった。
いくらならあるのかと聞くので、500円ぐらいだと言うと、2人ならそれでもいいよと言っていたけど、彼はまだ帰るつもりはなかったので、私一人の料金だ。別に馬車に乗ろうと決めていたわけではないけれど、無駄に払ったばかりだったため気分宜しくなかったので、
私 「さっきね、君の仲間に予想以上のお金払っちゃったからないのよ。明日帰国だしね、現金持ってないの。クレジットカード使える?」
と、私お決まりのクレジットカード法も入れて言ってみた。
馬車 「使えないよ。1000円(ぐらいだったと思う)ぐらい払えない?」
私 「本当にないからダメ」
私にはもう、ぼられる気はなかった。まだ現金は持っていたけど、これから死海へ行くのに2,3千円ぐらいは残しておきたかったし、ペトラで搾り取られるのが嫌だったので、それ以上の額は固く断った。
すると、客がいなくて困ったのか、「じゃあもう500円でいいから乗せて行ってあげるよ!」と、商業的捨て身モードに入ってくれた。
ありがとう。
というわけで、乗った。そこでドイツ人の彼とはお別れした。
やっぱり500円では本当に足りなかったのか、「誰か乗らないか!」と大声で観光客を勧誘しながら走っていた。そんな、「500円ぐらいの馬車」に乗車中。
馬車が楽しくて、私はこれで、スカッとした。
金額がお得だったため、さっきの一人ツアーと合計して1万円弱ぐらいになったという金銭的価値理由もあっただろうけど、ぼったくられなかったので腹も立たなかったというのもあっただろうけど、最後にこのスピード感でここを走れたというのが良かったのだと思う。
ロバは思ったより早かったけど、ロバ速度でしかなかったので。
どんな世界遺産も、乗り物にはかなわなかった。
中途半端に終わったペトラ、たったこれしか見られなかったけど、一番楽しかったのは、この馬車だった。これで私のペトラの思い出は修正され、最後の馬車が全てを変えた。
順番が逆ではいけない。嫌なことは先にくるほうがいい。そこで打たれているだけの人には、修正は起きないので。
というわけで、死海へ行こう。



